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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第15章 天下の険




涙ぐみそうになるのを堪えて、私も思いを返す。


「私こそ、ありがとう。今まで知らなかった気持ち、沢山教えてもらえたよ。出会えて良かった。ユキくんにも、みんなにも」


まだ終わったわけじゃないのに。
明日の5人が走りきった後にこそ、伝えたい言葉だったのに。

これまでの日々が沸々と心に蘇ってきて、躊躇いなく喉から情感が溢れ出す。


ユキくんの瞳は穏やかだけれど、どこか鋭い光を秘めているようにも見える。
その正体こそきっと、明日への決意。


「舞の力、俺に貸して」


重ねていた手が引かれ、そっと抱きしめられる。
背中に腕を回して、お互いの熱を分け合うように息を潜めた。

数十秒、恐らく一分にも満たない束の間の抱擁。

大丈夫、無事に走り抜く。
箱根の山を駆け下りて来るのを待ってる。
ユキくんは、自分で決めたことは成し遂げる人なのだから。

私を包む腕が解かれていく。


「明日な」


「うん、明日」


眼前に拳が掲げられた。
戦友と熱烈な意気込みをぶつけ合う時の、そんな仕草を思わせる。
今の私はユキくんの恋人であり、チームメイト。
言葉にはしなくてもその気持ちが響いてくる。


ユキくんの拳に、私の拳をコツンと合わせた。



「「小田原で会おう」」



明日、笑顔で再会できますように。


そんな願いを込めて。





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