第6章 Mission
「なに遊んでやがる。さっさと始末しろよ!」
最後の男を斬り捨てたグリムジョーが苛立ち混じりに言うと同時に、ゴゴゴ……という重低音が響きわたり辺りの空間が歪んだ。
「これは――穿界門!」
背後に現れた異質の空間に少女は顔を輝かせた。
ふと倒れた上官を見ると、その手には伝令神機が握られていた。
彼は退却を指示してから斬り落とされるまでのあの刹那の間に退却援護要請を出していたのだ。即ち、尸魂界側から穿界門を開き隊士たちがすぐに退却できるようにと。
「ウルキオラ!」
瞬時にグリムジョーが声をあげた。しかしそれよりも早く少女は瞬歩で跳んでいた。
わかっている。
今ここでこの少女を殺さなければ、敵に自分たちの情報を丸ごとくれてやることになる。
そんなことは許されない。
そう考える頭の中を彼女の笑顔がちらついた。
遥か彼方の時から、彼がずっと呼び続けていた人の、笑顔が。
だめだ
殺すな
彼女を傷つけたくない
拒絶する理性に対し、己を構成する虚の本能は容赦なく浸食を開始する。
殺シタイ
ソノ小サナ身ヲ引キ裂イテ、生温カイ血ヲ浴ビタイ
殺セ
殺セ
コ ロ セ ! !
意識とは切り離された世界で獣のような声が聞こえた。
気づいたとき、ウルキオラの足元には動きを止めた少女の体が血の海に横たわっていた。
頬を滴(したた)る血の感触に嫌でも思い知らされる。
ああ
俺はもう、人間じゃない
人の心を失ったケダモノだ
だから、沙羅
もうあの頃のようには戻れない
君を愛したあの頃のようには
もう二度と――
***
《Mission…課せられた使命》
『ヒト』の理性は『ケモノ』の本能にのみこまれた。