第3章 A Strange Death
刹那、腰の刀剣に手をかけた。その体勢を保ったまま周囲に目を走らせ、ほかの気配がないことを確認する。
再度女に視線を戻し、その口から規則正しい寝息がもれているのを確かめたところで刀の柄から手を離した。
独特の黒い死覇装に、腰に携えた斬魄刀。間違いなく死神だが――
見たところ目立った外傷も術にかけられている様子もない。長い薄茶の髪を風になびかせて、心地良さそうに瞼を閉じている。
……どうやら本当に眠っているらしい。
そう判断すると無意識のうちに吐息が口をついた。
完全な無防備。これだけ接近していながら目覚める様子もない。敵ながら……ありえない。
ヤミーがいれば即刻引き裂いて血飛沫を浴びたがるのだろうが、あいにくそんな下卑(げび)た趣味はない。
魂を喰らうにも、こんなところで寝こけている死神を吸収しようものならかえって弱体化しそうな気がしてならない。
つまり、殺す価値はない。
とはいえこうも見事に桜の木の根元を陣取られてはおちおち上にもあがれない。なんて迷惑な死神だ。
仕方がない、目を覚ましてここから立ち去るのを待つか――
そう決めこんで近くの茂みに身を潜めたものの死神の女が目覚める気配は一向になく、ついに痺れを切らして目の前まで歩み寄ったとき、当の本人はようやく身じろぎした。
虚ろに開かれた瞳はしばらく空をさまよい、やがてこちらの姿を完全に捉えたところで驚きの色を浮かべる。
「破面……?」
まあ、昼寝から覚めた途端目の前に宿敵が立っていれば驚くのも無理はないだろう。だが恐れをなして逃げだすかと思いきや、女はそのままぼけっと立ちつくしたまま。
かといって殺気を放つでもなく、あまりに隙だらけのその姿に斬魄刀を構えないのかと問えば「構えたほうがいいの?」となんとも気の抜けた返事が返ってきた。
……なんなんだ、こいつは。