第1章 Under the Cherry
「ちょっと。聞いてるの? こんなところでなにしてたのよ」
「あ、えーと。……昼寝?」
「はあ!? 信じらんない、せっかく現世で羽を伸ばす機会だったっていうのに」
「十分伸ばせたよ。久々にゆっくり眠れたし」
うーんと大きく背伸びをして笑ってみせると、乱菊は呆れ顔で肩をすくめた。
「ったくあんたって子は……。ま、いいわ。時間がないから早く戻りましょ!」
「うん――」
穿界門をくぐる乱菊のあとを追いながら、最後にもう一度振り返る。
夕闇が迫る町外れの公園には、やはり人の気配は感じられなかったけれど。
門が閉じる最後の瞬間、桜の大木の頂上にふわりと白が舞った――そんな気がした。
「…………変わった人」
尸魂界へと繋がる道を歩みながらくすりと笑みをもらす。
いや、正確には「人」ではない。
「人」ではないが、少なくとも沙羅が想像していた「破面」とも違った。
できることなら――
「ちょっとー沙羅! 置いてくわよ!」
「はーい、今行く!」
前方から乱菊の甲高い声が響いて、沙羅は慌てて駆けだした。
できることなら、もう一度逢いたい。
逢って話をしてみたい。
不思議とそんな気にさせる相手だった。
それが沙羅と彼――ウルキオラとの出逢いだった。
***
《Under the Cherry…桜の下で》
長い長い物語の幕開け。