第3章 母親
「仲が良い割には、あまり似ていないんですね。2人とも」
リドルはつい、思っていたことを口にしてしまった。
「アリスとは異母兄妹だ。俺の母親は純血の魔法使いだが、アリスの母親はマグルだ」
それを聞いて、リドルは一瞬言葉に詰まった。父親が浮気癖があると言っていたが、まさか母親が違うとは。それなのにあんなに優しくして……リドルはますますこの兄妹の仲の良さが理解できなかった。
純血主義のスリザリン寮に選ばれたのに、何故マグル生まれの妹を大事にしているのか。本当にコルウスが純血主義なら、アリスの母親を憎んでいるはずだ。それなのに何故こうして薬を作ってやっているんだろう。
「以外そうな顔をしているな」
思っていた事が顔に出たのか、コルウスが話しかけてきた。彼の独特な赤褐色の瞳が、冷たく光ってリドルを捕らえて放さない。コルウスは形の良い唇の端を持ち上げた。
「俺が血の繋がらない継母に、本当に薬を作っていると思ったか?」
「……どういう意味です?」
「あれは毒薬だ。即効性は無いが、じわじわ体を蝕み、やがて眠る様に死に至る」
まさか、本当ではないだろう。リドルはクラウスの告白に言葉が出てこなかった。しかし当の本人は可笑しそうに笑って話しを続けた。
「ついでに言えば、俺の殺したい相手は継母だけじゃない、父親もだ。俺達の父親は浪費家で、酒に煙草、女に賭博とやりたい放題やり散らかして、山のような借金だけを残しただけでなく、代々受け継いできた屋敷を売り払ってどこかへ消えた。山の様な借金と、病気の継母、それとアリスを残して」
「まさか……全部嘘ですよね」
「こんな嘘をついてどうする。何処へ隠れていたって必ず見つけ出して父親を殺す。グレイン家の恥であり、俺の味わった屈辱を思い知らすために――」
コルウスはそこで言葉を切った。赤褐色の瞳には、思わずリドルでさえ背筋が凍る様な冷たい光を孕んでいた。
この男、自分が思っていた以上に冷酷で残忍だ。アリス以外、人を人とも思っていないだろう。これ以上この男と係わっていても良い事は無い。リドルは何も言うことが出来ず、後ずさる様に教室を出て行った。