第1章 ◆ありったけの愛を、君に。 碓氷真澄
「―――監督ッ!!!」
「―ッ!!……あ、ますみくん……?」
自分を呼ぶ、焦ったような声にハッと目が覚める。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
顔を上げ、声の主を探してみれば、すぐ横に心配そうな表情を浮かべた真澄くんが立っていた。
真澄くんが帰ってきているということはもう夕方だろうか?
であれば急がなくてはいけない。
まだ夕飯の仕込みも何も終わっていない。
慌てて立ち上がろうとして、足に力が入らなくて、そのままぺたんと椅子に座り込む。
ああ、最悪だ。彼の心配そうな表情を見る限り、私はうなされていたのだろう。
その上、こんな醜態を見せてしまうなんて…。
「顔色悪いけど、どうしたの」
「あー…ハハ……何でも、ないよ。うん。心配かけてごめんね」
「………」
疑うような視線が痛い。
こういう時、元役者であれば演技でごまかせるんだろうけど、悲しいかな。
私の大根ぶりではどう演技しようともごまかせる気がしない。
「……さっき、うなされてた。」
「…な、何か嫌な夢でも見てたのかも。けどもう内容なんて覚えてないから――」
「俺は」
大丈夫、そう言ってもう一度立ち上がろうとチャレンジしようとテーブルに付いた手は、彼の大きい手に包み込まれた。
立ち上がるために腕に込めた力が抜けていく。
嫌な予感がする。彼の口を封じてしまいたい。
きっと今言おうとしている言葉は、特に今は聞きたくない。
「…ますみく」
「監督を愛してる。何かあったんなら、頼ってほしい」
ああ、間に合わなかった。
そんな言葉、私は聞きたくないのに。