第2章 Début.
「早速だが、本日より各教室に分かれて授業を行う。
今日はこのペアで調理してもらう。いいな」
皆の視線が一斉に集まっている真ん中に、田所 恵はいた。
視線を集めている張本人__創真は、気にも留めずぴよぴよと口笛を吹いている。
「お、よろしく」
創真とペアになった恵は、絶望を滲ませた表情をした。
用意されていた食材を弄りながら、創真は誰にとも無く話す。
「やー、授業で調理するなんて、家庭科の調理実習以来だなー」
始業式での事もあって、やはり周りの生徒達は良く思っていない様子。
彼方此方から、陰口が聞こえてくる。
「えっと、田所さんだっけ?
なんで親の仇のように人の字を書いて飲んでんの?」
しゃがみ込んで人の字を飲んでいた恵は、はっと顔を上げる。
「こ、これは…、緊張しないようにって…思ってですね…」
「緊張?なんで?」
恵は言いにくそうに言葉を詰まらせると、私…と切り出した。
「あと1回でも評価E取ったら退学だから…」
「ふーん…、エリート校って聞いたけど、
お前みたいなのもいるのな〜」
これは恵には大分応えたようで、しゅんとした顔になってしまった。
「あ、俺は幸平 創真。創真でいいよ!よろしくな!」
と創真は気にせず自己紹介をしている。
「あ…、よろ…しく…」
恵は周りからの攻撃的な視線に、また黙ってしまった。
すると、注目!という声とともに、金髪の講師が入って来た。
それに続いて琥珀も入って来る。
「お早う…、若きApprenti達よ」
皆がおはようございます、と返す中、創真だけが
「ア、ア、アプ、ラノ、ティー?」
と戸惑っていた。それに思わず琥珀は笑ってしまう。
「ローラン=シャペル先生…!」
「厨房に立った瞬間から、美味なるものを作る責任は始まる。
それには、経験も立場も関わりは無い。
私の授業では、Aを取れない品は全てEと見做す!
覚えておくがいい…」
プルプルと絶望に震える恵に、創真が話しかける。
「なんか怖そうだなあの先生」
「遠月でも、特に評価が厳しくて有名なの…!
去年も、1クラス50人全員にEを出して、
内18人はその授業で退学が決定したんだって…!
ついたあだ名が、"笑わない料理人"…!」
「へー…」