第2章 Début.
確かに合格通知、と書かれた紙。
えりなはそれを見て息を飲んだ。
「…どうして…!?」
それを懐に仕舞いながら創真は笑った。
「あの時はびびったぜー…、不味いとか言うんだもんよ。
美味いなら美味いって素直に言えよな」
「ちがっ…」
えりなは言いかけて、悔しそうに拳を握った。
そして髪をばさりと払うと、言っておきます、と言葉を放つ。
「私は認めてはいないわ。君も、君の料理もね!」
創真は分からなそうに首を傾げる。
「手違いよ手違い!君は手違いで遠月に来たのよ!」
創真は不満気にふぅん?、と呟く。
「てっぺんを取るですって?笑わせないで。
中等部からの内部進学者達は皆、最先端のガストロノミーを学んできたの。
上を見上げるまでも無い。外様の編入生なんて、
彼らにも勝てやしないわ」
えりなはそう言いながら、控え幕を出ようとする。
「中等部3年間ねぇ…」
創真の呟きに、えりなの足が止まる。
「何よ?」
「初めて包丁を握ったのは3つの時だった。
それから12年間、俺は調理場で生きてきたんだぜ?」
えりなは少し目を見張る。
「不味いわよって言われたままで、店の名に泥を塗るわけにもいかねぇな。
楽しみにしてな!あんたの口からはっきりと美味いって言わせてやるよ。
俺の料理の限りを尽くして!」
『面白いね、幸平君…』
ぼそ、と口に出した呟きが聞こえたのか、創真は此方を向いた。
「あんたは…、前に立って話してた…」
『そう。初めまして、珠宝席の白澤琥珀。よろしく』
すっと手を差し出すと、創真も笑って手を握る。
「よろしく!…ところで、珠宝席?って何?」
「な…」
えりなが何か言いかけたのをそっと手で制して、
『そのうちわかると思うよ。てっぺんを取るんでしょう?』
イマイチ意味の分かっていない創真を置いて、琥珀は会場を出た。