第6章 Tes chaussures.
「食戟を、いずれ君に申し込む。
逃げるなよ。必ず受けろ。その時こそ君をぺしゃんこにする!
それまでせいぜい腕を磨いておくことだぜ」
タクミは琥珀の腰に手を回すと先に行くように促した。
「また会おう、幸平 創真…!」
『……』
バスですぐ顔を合わせるはずだけど…。
とは口に出さずに、黙ってバスに乗り込む。
奥から詰めていくと、案の定、タクミと創真は隣になった。
創真はタクミを見てにやっと笑うと、
「なぁ、おい。…また会ったな!」
と揶揄い混じりに笑った。
「うるさいっ!話しかけるな!!」
「どーした、ぺしゃんこにしねーの?」
「話しかけるなって言ってるだろう!」
顔を真っ赤にして喚くタクミを、逆隣の琥珀は笑って見つめる。
ふん!と気に入らなそうにそっぽを向いたタクミは、
暫くすると悔しさを滲ませた顔で考え事を始める。
『……』
…俺が磨いてきた技術、知識をフルに活かせる課題だった。
あの料理を閃いたとき既に勝ちを確信した。
なのに、食い下がられるなんて…。
くそっ、勝敗は決していないのに、なんだこの敗北感は____。
このままでは終わらない、いつか必ず君を…!
ぎゅ、と拳を握るタクミをちらりと流し見た創真は、そのまま窓の外に視線をやった。
「………」
トラットリア アルディーニのタクミ…ね。
俺と同い年でここまでやれる奴がいる。
ゆきひらに籠ってたら、知らないままだったのか…。
それぞれが敗北感を胸に考え事に耽る中、バスは静かにホテルに到着した。
ホテルの入り口には既に悠姫達が待っていた。
創真に続いてバスを降り、極星寮メンバーのもとへ向かおうとすると、
「琥珀、」
と後ろからタクミに呼び止められる。
『どうしたの?』
「その…、」
もご、と言いづらそうに口籠るタクミに、
何となく言いたいことを察した琥珀は、タクミに向き直って微笑む。
『ん?』
「今日の夜…、予定は?」
『ふふ、ないよ』
「じゃあ、その…、部屋に行ってもいいか?」
いつまでたってもこういうお誘いは慣れないのか、
恥ずかしそうに目を逸らすタクミに笑みが溢れる。
『いいよ、じゃあ1207室で待ってるね』