第6章 Tes chaussures.
「それに…、あと15分もあるんじゃん!」
「何?」
「定食屋で15分も待たせたら、客がみーんな帰っちまうよっ!」
創真はきゅっと鉢巻を巻くと腕まくりをした。
「かかるぜ!田所!」
「はいっ!」
恵が丁寧に山菜の下ごしらえをしている間に、
創真は柿の種を砕き、岩魚を捌いていく。
分けた卵白に岩魚を潜らせ、柿の種の衣をつけると、
温めた揚げ油に放り込んだ。
その後に野菜の素揚げや、卵黄でソースを作り上げると、
15分も経たないうちに料理を完成させた。
『早い…』
綺麗に盛り付けられたそれを日向子の前まで持っていく。
柿の種の変貌を見た日向子は、感嘆の声を上げた。
「まぁ…、私の柿の種がこんな素敵な揚げ物に…!」
「どうぞ乾先輩。冷めないうちにおあがりよ!」
日向子がそれを口に持っていくと、
この課題ではまだ聞いたことのなかったザクッという音がした。
口を動かす度にザクザクと咀嚼音がする。
柿の種自体の少しピリッとした味と、
岩魚のほんのり甘い淡白な味が絶妙に合わさっている。
「なんて素晴らしい歯ごたえでしょう!
それでいて中の身はほくほく…、
衣に守られ岩魚の旨味がしっかり凝縮されています!」
「…!」
日向子は添えられていた黄色のソースをつけ、もう一度口に運ぶ。
「柿の種自体の味のおかげで、
衣からもしっかりとした美味しさが感じられます。
そして添えられているのは、卵の素と木の芽のふわふわソース!」
卵の素は卵黄にサラダ油を混ぜ合せたもの。
本来ならマヨネーズのように少しまったりとした油っぽさが感じられるものだけれど、
今回は塩と刻んだ"木の芽"を混ぜこむことで爽やかな風味が加わり、
油っぽさが打ち消され上品な味わいを作り出している。
ザクザク感とピリッとした味付けの合間に感じる、
このクリーミーでまったりとした口当たりが更に食欲をそそる…。
山菜を揚げてしつらえたあしらいも丁寧で抜かりない。
揚げ物との対比が実に目に鮮やかです。
これは、どちらが美味しいかと決めるのは難しいですね…。
「創真くん、どうやってこんなアイデアを…?」