第6章 Tes chaussures.
「うるかは本来ならば1週間以上かけ作る物ですが、
これはそれを即席で作ったものですね?」
『はい。水洗いした鮎の内臓を日本酒で茹で、
それにみりん、醤油、塩を加えれば即席うるかの出来上がりです』
さらっと説明したレシピに、周りから感嘆の声が上がる。
「即席のうるかだと…?」
「そんなことが出来るなんて!」
工夫はそれだけではありません、と日向子は笑って続ける。
「パセリに代えて大葉と葱を刻み混ぜることで
鮮やかな緑と爽やかな味を出し、
また日本料理には殆ど使わないニンニクの代わりに
柚子胡椒を使用、和食らしい風味を与えている…」
「そう…、これは即席うるかを主体にした
"和風サルサ・ヴェルデ"です!」
タクミが自信有りげにそういうと、ざわっと教室内がざわめく。
「くそっ、材料を聞いてるだけでよだれが…」
「イタリアンのソースを…和風に仕立てただと!?」
「そんな数の食材の組合せを、
この山の中で成立させるなんて…、なんてヤツだ!」
イタリアは日本とは違い古くから肉食中心の食文化を持つ…。
彼らの地元、トスカーナ州でもシーズンには
鴨や兎、猪などが食卓に出される。
その生活の中で鴨の解体、捌き方を学んだのですね。
胸肉は醤油、からし、黒胡椒、はちみつを混ぜたタレで
香ばしく焼き上げられ、ソースとの相性もばっちりです。
合鴨とサルサ・ヴェルデ、それぞれに和風のエッセンスをちりばめて
見事に日本料理として纏め上げている!
日向子は一年生にしては上出来過ぎるその品を前に、口角を上げた。
珠宝席の彼女は手伝いしかしていなかった。
それならばこの料理は、彼の実力だと言って差し支えないだろう。
これは、期待の一年生ですね。
「タクミ=アルディーニ、白澤 琥珀組、
合格とします!」
「grazie!」
目の前にすっと差し出された拳に軽く自分のそれをぶつける。
自分はサポートしただけだけれど、
タクミの品がこうして注目を浴びて合格するのは何だか嬉しい。
『おめでとう!流石タクミだね』
「何言ってるんだ、琥珀がサポートしてくれたおかげさ」