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Suprême.

第5章 Connaissance de la viande.


「まずは水戸さんの料理から、披露っ!」

司会にそう促された郁魅は、自信ありげな顔をして机に皿を出す。

白いお椀の中には、黄色みがかった米。

その上にステーキで大輪の薔薇を模した飾りつけがされてある。

「A5和牛のロティ丼だ」

『うわぁ、美味しそう…。

でもあれって下は何ご飯なんだろうね?黄色っぽいけど』

えりなは頬杖をつきながら郁魅の皿を見る。

「さあ、何かしら。ここからじゃよく見えないわね」

期待を顔に出し、審査員たちは品を次々と口に運ぶ。

火入れの角度まで繊細に計算された肉だ。

それはそれは美味いことだろう、と琥珀は思う。

…だが、そこまで旨味の強いものを上にするなら

下もそれなりに考えなければならない。

『ガーリックライスね…』

「…あまり良い組み合わせとは言えないけれど、

相手が幸平君なら十分だと思うわ」

幸平君なら十分、という言葉に琥珀は思わず眉根を寄せる。

そのガーリックライスだけで白米を何杯も食べられるという。

果たしてそんな米で、あの一皿は完食されるのだろうか。

味同士が喧嘩して、最早丼とは呼べない品のような気がする。

「官能的なまでに仕上げられたとてつもない一品!

素晴らしい出来栄えだ!!」

審査員の反応は上々。

会場の空気も、まるで郁魅が勝ったかのような盛り上がりを見せている。

「では続いて、幸平君の品を審査して頂きましょう!

題して、何丼でしょうか?」

司会にマイクを向けられた創真は少し考えて言った。

「そだね…、名付けて幸平流"シャリアピンステーキ丼"かな」

えりなはそれを聞いて、呆れたようにため息をつく。

審査員の反応も、呆れたようなものに変わった。

嘲笑を顔に貼り付けたような表情で肩を竦めあっている。

しかし創真は、そんな雰囲気を気にも留めず自信有りげに蓋を開いた。

そこには、先程と同じ様に狐色の玉ねぎがてんこ盛りになったステーキ。

そこに褐色のとろみのあるソースをゆったりとかける。

『美味しそう…』

琥珀が思わずそう呟くと、またえりなの視線を感じた。

「ま、まぁ思ったよりは美味そうな感じですね…」

と審査員達は恐る恐るそれを口に運ぶ。
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