第5章 Connaissance de la viande.
『あーちょっと遅くなっちゃったな…』
荒い息を整えながら、琥珀は長い廊下を急ぎ足で歩いていた。
思ったより案が纏まらなくて会議が長引いてしまった。
『結構歓声が聞こえてるなぁ…』
遠くの方に聞こえる歓声。
どうやらそろそろ両者完成の様だ。
VIPルームに入ると、そこには珍しくえりなが座っていた。
『あれ、えりな?食戟見に来るなんて珍しいね?』
「琥珀こそ、どうしてこんな小さな食戟を?合宿前なのに、忙しいでしょう」
琥珀はえりなの横に腰をかけながら笑う。
『ホントはあんまり見に来る余裕はないんだけどね…』
「十傑だって忙しそうにしているもの。琥珀は今年、課題も出すんでしょう?」
『そうなんだよね…。どんな課題にすればいいのか漸く今日纏まったよ…』
琥珀は食戟の様子を眺める。
もうすぐ完成と言ったところだろうか…。
創真は…、ご飯の上にステーキを載せた丼を作っているが…。
『あれは…何丼?ステーキの上に乗せてるのは何?』
琥珀の呟きに、えりなは忌々しげに答える。
「玉ねぎよ。シャリアピンステーキってところね。本当に低俗な料理人だわ…」
えりながあまりにも創真を嫌っているのが面白くてつい笑ってしまう。
『でも頑張ってたよ?昨日は試作に付き合ってたんだけど』
「どうして貴女が?」
『創真と結構仲良いんだよ、同じ寮だし…。立場上アドバイスなんかはできなかったんだけど』
気に入らないようにえりなはため息をつく。
「どうして貴女のような素晴らしい料理人が、あんな低俗な料理人と関わっているの?」
『うーん…。私は期待してるからかな…、創真に。…あっ、品出しするみたいだよ?』
郁魅が審査員の前に品を持っていくのを、琥珀は身を乗り出すように見る。
「…期待ですって?貴女が彼に一体何を期待するというの?」
『もしかしたら…、私を超える料理人かもしれない…』
驚きのあまり、えりながこちらを凝視するのを横目で笑いながら
『……とかね?ふふ、私は創真のこと結構気に入ってるけどね?』
目線を前に戻した琥珀を、えりなは何も言えずただ見つめていた。