第5章 Connaissance de la viande.
寛一はドカッと椅子に座る。
「…俺の丼研、薙切えりなさえいなければ…!!」
「薙切?」
と創真が反応すると、寛一はああ、と続けた。
「奴のやり口はこうだ。
まずは気に入らない団体の予算カットや部室の縮小を会議に提出。
強引に可決させる。
ジリ貧になった相手に残された手は1つしかない…。
一発逆転の…、食戟だ!」
創真は目を見開いて聞き入る。
「薙切は食戟を受けることをのむ代わりに、
更に無茶な要求を突きつけ、
最終的には丸ごと自分の望むままに…。
そうやって勢力を広げ続けてるんだ。
丼研の部員たちは今回の相手が
薙切の手先だと知った途端、全員逃げ出しやがった…」
と最後の方にはまたしおれながら話す。
「あぁ…、んで対戦相手は薙切なのか?」
「そりゃあ…」
と寛一が言いかけると、ガラッと研究室の扉が開いた。
皆が開いた扉の方を見やる。
すると、何人かの業者がズカズカと入ってきていた。
「お、おい!」
と寛一が止めに入ろうとすると、
後ろから褐色の女子の影が続く。
「やはり改装するより、建て直す方が早いかと」
「そう?じゃそれで」
と業者と話す女子に、寛一が突っかかる。
「何のつもりだよ!水戸!!」
水戸と呼ばれた女子、水戸 郁魅はこちらへ
ツカツカとやって来ると、
「何って早めの下見に来たんだよ。
結果はもう見えてるからさぁ…」
と寛一を脚で壁に追いやる。
「えりな様も仰ってたよ…?
丼なんていくら拘っても所詮B級グルメでしかない低俗な品…。
この遠月には必要ありません、ってね。
まぁあたしに勝つ自信があるなら話は別だけどなぁ?
…わかったかい?主将さん。
お呼びじゃないのさ、こんな部は」
寛一は一体どこに視線を向けているのか、
小さく肉魅が…、と呟く。
刹那、寛一の自慢のリーゼントの一部が床に落ちた。
「え、うお!?」
と寛一も自分の頭を見て驚く。
郁魅は包丁を持ったまま、
「肉魅じゃねぇ、もう一度言ったら…」
と寛一に圧をかける。
『郁魅が食戟の相手なのね』
「なんなの?あいつ」
琥珀の言葉に創真が反応する。
と同時に、自分の名前に反応したらしい郁魅が
こちらへちらりと視線を向けた。