第5章 Connaissance de la viande.
研究室の中へと入ると、何故かしおらしい男の人が。
その男の人はこちらをちらりと見やると、鼻で笑った。
「わりぃけど帰りな…。
もうじき丼研は潰される運命だからよ…」
えぇ…と少し引き気味に声を上げる創真。
えりなか…と呆れたように琥珀はため息をつく。
と、男は急にガバッと顔を上げると、悲鳴に似た声を上げた。
『!?』
「なっ…しゅ、珠宝席!?さん…。
ななな、なんでこんな…ところに…」
おたおたと琥珀を見て、慌てふためいたと思うと
「まさか薙切の回し者か!?」
と頓珍漢なことを言い出す男。
『どうして私が十傑に回されないといけないんですか…。
ただの付き合いですよ』
呆れたように琥珀は答える。
「珠宝席を付き合わせるってお前…名前は?」
と男に名前を聞かれた創真は、
「幸平創真っす」
と素直に答える。
「幸平か…。俺は小西、ここの主将はってる者だ」
と相変わらず萎れている小西 寛一に、創真は声をかける。
「…大丈夫っすか先輩。なんかしおしおしてますけど…」
寛一は自嘲気味に笑う。
「笑えばいいさ…。丼研を守れない俺なんか…」
琥珀は、床にノートが
散らばっているのを見つけ、一冊拾って開く。
どうやらそれはレシピ集のようで。
「お?なんだそれ」
と琥珀のもつノートに気づいた創真も、
横からノートを覗き込む。
『レシピ集みたいだよ』
「王道から変わり種まで…、
どれもピリッとした工夫がしてある…。
どのレシピもおもしれぇじゃん、
なんでここ潰されなきゃいけねぇの?」
と、その言葉を聞いた寛一はガタリと立ち上がった。
「わかってくれるか…!幸平ぁぁ!!!」
「泣いてる…」
がしりと創真の肩を掴んだ寛一はそのまま続ける。
「丼とは、早い旨い安いの様式美!
1椀で完結する漢らしさ!!闘う漢の為の漢飯!!!
俺は!俺は一匹の漢として
丼を極めるまでは死ねないんだぁぁあ!!」
『なんか…凄い人だね…』
と琥珀が引き気味に言うと、
「いや〜な暑苦しさがあるな…」
と創真も引き気味に頷いた。