第4章 Beau printemps.
ブルーベリーの少しの苦さを孕んだ酸味と
ホワイトチョコレートの甘くまろやかなコク。
それぞれが更に味の変化をもたらしている。
「美味い…」
間に挟んだラズベリーピューレ…。
在り来りな発想ではある。が、
ただラズベリーと砂糖、ゼラチンを煮ただけでは
こんなまろやかな甘味は出ない…。
「このラズベリーピューレ、何を使ってるんだ?」
「確かに、ラズベリー単体の味ではない気がする…」
『使ったのは、フランボワーズリキュール。
ラズベリーに蜂蜜やハーブを加えたお酒だから、
それを加えることによって、
更に良質な甘味を加えることができるの』
この赤紫のソースも、と琥珀は指差して続けた。
『ブルーベリーとカシスリキュール、
赤ワインを煮込んで漉したものなの。
ブルーベリーの酸味に、濃厚なカシスリキュールの甘味と苦味。
それに赤ワインの渋味を少量加えることによって、
更にコクのある風味に変えることができるのよ』
なるほど…、と創真は唸る。
たったあれだけの時間で、これだけの仕事量…。
珠宝席の名前は伊達じゃないってことか…。
「やはり凄いね、琥珀ちゃん」
『え?』
慧は笑いながら言った。
「君にとっては無難でしかないこの品…。
でもきっと僕には、全力でかかってもこの短時間で
これだけのことをこなす事は出来ない…」
少し自嘲気味に見えたその笑みに、
琥珀は眉根を寄せる。
『そんなことないと思います…、慧先輩。
先程の品も、流石十傑だと思わせる仕事量でした』
「そうかい?ありがとう」
と、慧は創真の方を向いて手を差し出した。
「良い勝負をありがとう!」
とお互いの手を堅く握り合っている。
「丸井?まーるーいー?」
と悠姫が善二を起こす隣で、創真は包丁を研いでいた。
皆がそれぞれに自室に戻っていく。
『それじゃあ私も休みますから。
おやすみなさい』
と二人に声をかけて、部屋を出ていく。
「うん、おやすみ」