第4章 Beau printemps.
「完成だ!幸平裏メニューその20改!
鰆おにぎり茶漬けだ!!
本当は鮭で作る品なんだけど、
本日は鰆バージョンにアレンジしてみたんだ。
みんなの分も作ったから、一緒におあがりよ!」
涼子は嬉しそうに茶碗を持ち上げると、
「わあ、ありがとう!…注いであるのはなぁに?」
「塩昆布茶だよ。
優しい塩気とコクが、食事の〆にぴったりだからね」
「もー!!こんなの出されたらお腹減るに決まってんじゃーん!」
と嬉しそうに言う悠姫に、峻もそうだな、と共感する。
慧は茶碗を持ち上げ、興味深そうに中身を眺める。
「じゃあ早速、いっただきまーす!!」
と悠姫の声を皮切りに、みんなが一斉に食べ始める。
『頂きます』
白米と鰆を一緒に口に含み、ゆっくりと咀嚼する。
ふやけた白米の甘みと、バリっと焼き上げた鰆の旨味。
鰆は噛むたびに旨味が溢れ出して来る。
三つ葉を一緒に口に入れることで、
日本のハーブらしい爽やかな風味が口に広がる。
塩昆布茶の塩気とまろやかなコクが、身体に染み入るような。
『うん、美味しい…』
「鰆の身が凄くジューシーで…、何より皮のこのザクザク感!
噛むたびに旨味が湧き出てくる!」
「ただ炙っただけじゃこの歯ごたえは出ないわ…。
一体どうやって…」
「ポワレだ」
慧の呟きに、皆は目を丸くする。
「この鰆…、ポワレで焼き上げられている」
「「ポワレ!?」」
と創真も含めた三人が驚く。
「ってなんであんたも驚いてんのよ!!」
と悠姫は創真を指差して叫ぶ。
「いやぁ…、ポワレってなんだろうと…思って…」
創真は頬を掻きながら笑う。
「はぁ!?」
「ポワレって言うのは、
フランス料理における素材の焼き方、ソテの一種だよ。
素材の上からオリーブオイルなどをかけて、
均一に焼色をつける技法だね。
教えてもらえるかな、創真くん。
何故君がフランス料理の技法を知っているんだい?」
「いやぁ、この焼き方はうちの親父に習ったんですよ。
魚をバリっと仕上げるにはもってこいだってね。
ご飯と一緒にザクザク食うのもいいし、
昆布茶に浸して少ししんなりさせると、
また違う食感が楽しめるんだ」