第3章 Vierge Marie.
「はい、幸平くん」
と、涼子が創真に紙コップを渡した。
「あ、あぁ、どうも」
とぽとぽ、と白濁色の液体を注ぐ。
すぅ、と香りを嗅いだ創真は、うん?と首を傾げた。
「この濁り…。手書きのラベルが貼られた一升瓶…」
「お米から作ったただのジュースよ」
有無を言わさない笑顔で涼子が言う。
「へぇ…」
「ほら琥珀も」
と紙コップを渡される。
『あ、ありがとう』
と注がれたソレを一口舐める。
もう既に出来上がっているのか、
ギャハハ、と騒ぐ皆を創真が宥める。
「つーかこんな夜中にこんな騒いで大丈夫なの?」
「大丈夫よ。寮の周りは森だもの」
「で、でもよー、ほら、寮母のばあさんが…」
と創真の声を遮って、金パイプから声が聞こえる。
「こらあんたたち!」
ふみ緒の聞こえてきた声に、創真はまずそうな顔をする。
「ぶり大根があるから、誰か取りにおいで!」
「やったぁ〜」
「ババア愛してる!」
フラフラと昭二と大吾が取りに向かう。
いいのかよ!と創真が後ろからツッコミを入れる。
「ふみ緒さんの十傑自慢が始まる前に帰ってくんのよ〜」
創真は十傑、という言葉に反応する。
「なぁ、十傑って何なんだ?」
「え、本気で聞いてる?」
と涼子は少し引き気味に答える。
「君、本当に何も知らずに遠月に入ったんだねぇ。
丸井、説明してあげて」
「なんで僕なんだよ」
「文句言わないで。新入り君の為よ」
善二は諦めたようにため息をつくと、
しょうがないなぁ、と呟いた。
「遠月十傑評議会。
それは、学内評価上位10名の
生徒達によって構成される委員会だ。
遠月では多くの事柄が生徒の自治に委ねられており
あらゆる議題が十傑メンバーの合議によって決定される。
まさに学園の最高意思決定機関。
学園の組織図的には総帥の直下にあり、
講師陣ですら、十傑の総意には従わざるを得ない」
「ま、十傑が最高意思決定機関だったのは、3年前の話。
昔、寮の部屋が常に満室だった頃、
極星から十傑が出まくってたんだってさ」
「十傑の席全部、極星勢が占めた年もあったみたいね。
ふみ緒さんがその話始めると、長いのよね」
「ふーん…。3年前、ってことは
今はどうなってんの?」