第2章 Début.
創真はす、っとフォークを置くと琥珀を見た。
どうしたの、と首を傾げる。
「すげぇな、これが珠宝席か…」
創真は悔しそうにぐ、っと拳を握りしめた。
『恵は?お口にあったかな』
恵はコクコク、と頭を上下に振る。
「ちょっと聞いていいか」
うん?と首を傾げて続きを促す。
「さっきの皿…。肉を噛んだ時、すげぇ口辺りがよくて蕩けるみたいだった。
牛バラ…じゃないよな」
『よくわかったね、そうだよ牛バラ肉じゃない。
私が使ったのは牛スネ肉。他の部位と違って、コラーゲンがたくさん含まれるところ。
煮込み料理にはぴったりの部位で、煮込めば煮込むほど
旨味をたくさん出してくれて、更に蕩けるような口辺りがうまれる。
しかもそれだけじゃないよ。
蜂蜜やパイナップルだけじゃなく、玉葱にもタンパク質分解酵素は含まれる。
それをしっかり肉に揉み込む事によって、更に柔らかな口辺りになるんだ』
なるほど…と創真は考え込む。
「牛肉だけじゃこんな旨味は出せない…、どうやって…」
『牛肉には、イノシン酸が含まれている。これが旨味成分なのだけれど、
更に別の旨味成分を掛け合わせることで、旨味の相乗効果が発揮される。
今回は、トマトに含まれるグルタミン酸との掛け合わせだよ』
ふむ、と創真は唸ると、
「ありがとう、勉強になったよ」
『いえいえどういたしまして』
最後の生徒は、創真達の鍋に嫌がらせをしたペアだった。
恐る恐る持ってくる品。
『明らかにソースが焦げているけれど…。
こんな物を出すなんて一体どういうつもりかな』
ひっ、と短い悲鳴をあげる。
ぺろ、と舐めたソースも、最早塩の味と焦げの味しかしない。
同じようにソースを舐めたシャペル先生も、青筋を立てている。
『他人の鍋に手を加える前に、自分の皿を満足に完成させたらどうなの』
「評価E」
シャペル先生はそう呟く。
そのペアは、膝から崩れ落ちていた。
他の生徒たちは、片付けを各々に済ませ、実習室を出て行く。