第2章 Début.
「同じように、肉を柔らかくするものはないかって色々試したんだよ。
蜂蜜は保存もきくし、ダントツで使い易いのさ。
…ま、食ってみればわかるよ、田所も。ほれ」
と、創真は恵にフォークを渡す。
シャペル先生と琥珀も、ゆっくりと肉を口に運ぶ。
『…!』
ゆっくりと肉を咀嚼する。
「どうよ、期待の俺の料理は!」
『美味しい…』
最早咀嚼など必要ないくらい柔らかくなった牛バラ肉。
本来のレシピで作れば、ブッフ・ブルギニョンは
赤ワインの渋みが棘となって目立つ料理だけど…。
肉と下味に使った蜂蜜のまろやかな甘味によって
赤ワインの棘がなくなり、随分食べやすくなっている…。
「C’est merveilleux!」
とシャペル先生は満面の笑みでいう。
その満面の笑みを見て、他の生徒達はシャペル先生が笑った事に驚いていた。
シャペル先生は静かにフォークを置くと、
「幸平・田所ペア、評価Aを与えよう。
…ただ、私がAより上を与える権限を持ち合わせていない事が、
残念でならないがね…」
と悪戯な笑みを浮かべて言った。
「お粗末!」
恵が本当に嬉しそうな顔をして喜んでいる…。
『本当に美味しかった。期待通りだったよ…。
恵もよく頑張ったね!』
と褒めると、恵は嬉しそうに笑う。
「で、俺たちもそれ、食えんの?」
と創真が指したのは私の皿。
『ああ、もちろん!どうぞ召し上がれ』
「よっしゃ!いただきまーす!」
「わぁ〜!いただきます!」
と、肉を口に放り込んだ2人は、目を見開いて固まる。
それを見て、思わず口角が上がった。
『どう?創真…。美味しいでしょう?珠宝席の皿は』
創真達は、不敵に微笑む珠宝席を見て冷や汗をかく。
珠宝席にしか持ち合わせていない気迫が、ひしひしと伝わってくる。
自分達の皿とは比べ物にならないほどの美味しさ。
蜂蜜や砂糖の類いでは出せない、爽やかでかつコクのある優しい甘味。
肉に含まれるイノシン酸だけでは出せない、びっくりするほどの旨味…。
赤ワインではない爽やかな程よい酸味。
味の奥底にある、ほんのりと苦味を孕んだコク…。
「すげぇ…」
思わず口に出してしまうほどの美味さ。
これが、珠宝席の皿…。