第10章 目指すのは
『肩の力抜いて…そう。ゆっくり、ゆっくりで良いからね。』
樋口が放った弾は、的の中心の数mm右を掠めた。
『近いね。唯緊張してるから手元がズレるんだよ。もっとリラックスして打つと良いよ。』
「えっと…奏音さん、一度見本お願い出来ますか?」
申し訳なさそうに樋口は云う。
『…下手だけどそれでもいい?』
恥ずかしそうにし乍銃を構える奏音。
それに気付いた立原も練習の手を止めて樋口の隣に来る。
肩を軽く落とし、足は肩幅まで開く。
深呼吸をして、焦点を合わせ、怖気付く事無く引き金を引く。
すると、弾は確りと的の中心を捕らえた。
「矢ッ張りすげぇわ…」
立原は思わず感嘆の声を漏らす。
『こんな感じ、かなぁ…』
「奏音さんは誰に銃を習ったんですか?」
樋口の疑問に口を閉ざす。
『……今はポートマフィアに居ない親しかった人だよ。二人共、かなり強かったの。』
そう云って宙を仰ぐ奏音の目じりには光るものが見受けられた───。
◆◆◆◆
────とあるアパートの一室にて。
「…有島さん、そろそろ動きますか?」
「そうしようか。奏音も自分の過去を知りたいだろうし…
何よりそろそろ副作用が現れるんじゃないかな。」
「何度思い出しても悪寒が走る…
もうあんな思いさせたくない。」
業はそう云って拳を固く握り締めた。
「そうと決まれば行きますか。
いざ、ポートマフィアに。」
そして二人は歩き出した。
◆◆◆◆
薄暗い地下牢に、一人の男が吊るされていた。
「…如何してわっちが此処に居るのか解らぬ様子じゃのぉ…」
お淑やかな微笑みを浮かべる紅葉。
そして隣には奏音がいた。
『成瀬、何故貴方、此処に来たのよ。
謹慎処分中だと聞いたのに。』
「…勝手に逃げ出した貴女が良く云いますね。一つ忠告です。
気を付けて下さい。嵐に巻き込まれますよ。貴女の心の弱さでは、きっと飲み込まれてしまいます。」
そう云って成瀬はニヤリと口角を上げる。