第8章 三叉路の真ん中で
『私ね、治と中也に過去を全て、知ってるだけ話したよ。』
穏やかな笑顔を浮かべる奏音。
「ほぉ…?心を開く価値を見い出せたか。」
『うん。やっと、やっと自分も幸せになっていいんだなって思えたよ。』
「そうか。それは何よりだ。」
敢えて素っ気なくしているのだろうか。
綾辻は淡白で抑揚の無い声で返す。
『…じゃあ、私行くね。
きっとお父様が探してるから。』
綾辻の反応に微かに疑問を抱き乍も、奏音は綾辻の元を後にした。
「…綾辻先生、良かったんですか?」
奏音が去って直ぐ、辻村が珈琲を持って来る。
「俺が直接云えるのは彼処までだ。
……だが、あの子に居場所が出来て良かった。
特務課の連中とも心の傷の所為で上手くいかず逃げ出してばっかりだったが、今度は上手く行きそうだな。」
そう云って少々豪快に珈琲を啜った。
────その珈琲は何時もより少しだけ甘かった。