第5章 追憶と過去
────時を遡ること十年。
大勢の子供たちが夜道を只管道なりに歩いてゆく。
そして、子供たちの列の先頭にも最後尾にも、似た様な格好をした男が3,4人張り付いている。
「ねぇお姉ちゃん。此処、何処、?」
『柚音…心配しないで。お姉ちゃんが付いてるから。』
「うん……」
亜麻色の髪を肩まで伸ばした4,5歳位の少女が奏音の腕を掴む。
柚音と呼ばれたその少女は奏音の妹だ。
『…柚音、此処から逃げよう。
走れば何とかなるかもしれない。』
突然、奏音が小さな声で柚音に耳打ちする。
「ほんと、?!
解った。お姉ちゃんの云う事聞くから。」
柚音の顔が途端に煌めく。
奏音と柚音が目で合図し、走り出そうとしたその時だった。
「辞めておきな。良い事無いから。」
銅褐色の髪に紅眼の少年が彼女たちの腕を掴む。
「え、でも…此処にいても…」
「その気持ちは解るけど、無駄。
君らが死んじゃう。それは駄目だから…」
俯き乍少年はぼそぼそと喋る。
視線の先には、目を光らせている男たちがいた。
『教えてくれてありがとう。
私は奏音。君は?』
奏音は何かを察したらしく、素直に応じる。
「僕は業。よろしくね。」
そう云って二人は握手を交した。
◇◇◇◇
「今から全員身体検査を始める。
全員自分の番号の部屋へ行け。」
とある施設に移された子供たちは大まかな年齢ごとで部屋を別けられる。
『か、業くんは、何番だった?』
「僕は五番だよ。奏音ちゃんは?」
『良かった…私も五番。柚音は?』
そう云って奏音が柚音に目を向けると、番号札を握って押し黙ってしまった。
「わ、私は4番。お姉ちゃんたちとは違う部屋だね。行ってくるね。」
柚音は泣きそうな顔を隠し乍四番の部屋に向かって行った。
─────これが、二人にとって此処での最後の会話となることなど、誰も予想していなかった。