第4章 微睡みから醒めて
「…た、助けてくれ……」
口から深紅の血を流し乍、男は必死に懇願する。
「そらァ無理な願いだなァ…」
『私もちょっと無理かなぁ…』
中也と奏音は二人掛りで敵部隊の頭を追い詰めていた。
『…異能力──四鏡、水鏡。』
「異能力──汚れつちまつた悲しみに」
二人同時に異能力を発動する。
奏音が生み出した硝子破片を中也の重力操作で加速度を付けて相手に放つ。
「…───ギャァァァァッッッ!!」
全身に硝子破片が突き刺さった男は痛みで悶える。
太宰の指示で"死なない程度"の攻撃しか与えていないので、いっそ死んだ方がましなのでは、と云う位の痛みや苦痛が一気に襲い掛かる。
『…なんだか申し訳なくなってきた。
一発で逝った方が楽なのに。』
奏音の口から出た、彼女の外見からは想像が付かぬ言葉に中也は驚きつつも笑って返答する。
「ははっ!確かにそうだな。
俺も何方かと云うと一発派だ。」
良く耐えたな。
そう云って中也は奏音の頭の上に手を置いてそのままぐしゃぐしゃと掻き回す。
『あぁ!髪の毛……うぅ…』
奏音の段々と萎んでゆく声を無視して続ける中也。
奏音の目には入らなかったが、その表情は戦場には似合わぬ笑顔で一杯であった。
「…何をやっているんだい。
終わったなら連絡の一つ位入れ給え。」
男の叫び声で任務を遂行した事に気付いた太宰が二人の方へやって来る。
「あァ、悪かったよ。終わったぜ。」
中也はパッと奏音の頭から手を除けて太宰に応える。
『私、少し海の方へ行ってくる。』
そう一方的に告げて奏音はその場を去った。
「……全く。公私混同は禁物、って私云った筈なのだけどねぇ…」
太宰の独り言は誰にも聞こえること無く消えていった。
◇◇◇◇
『………はぁぁぁ…』
海を目の前にした奏音の口からは盛大な溜息が漏れる。
『…異能力──四鏡、増鏡。』
自分の分身を一人だけ出して、座らせ、その膝の上に自分の頭を乗せて寝転がる奏音。
『……硝子で出来てるから痛いや。まぁ…でも寝転びたいから我慢かなぁ。』
そうぶつぶつと呟いている内に奏音は眠りに落ちていった───。