第11章 真実と虚偽の狭間で
その光景を太宰はただただ黙って見詰めていた。
…いつ奏音の部屋に入ったかは不明だが。
『…みんな、みんな私の傍から離れていく。柚音も、業も、有島さんも、ケイさんも。
きっとその内、治や中也も居なくなる。
だったらいっそ……!私が居なくなった方が早いのかな…。』
ぼそぼそと独り言を云い乍奏音は鏡の手入れを始める。
『幸せに………なりたかったな。』
その声は消え入る様に細く心許無いものであったが、太宰の耳には確りと入っていた。
「なればいいじゃないか。」
太宰の声に驚いた様な表情一つせず、奏音は首を横に振る。
『無理ね。だって私、裏社会で何て云われているか知ってる?』
「"歩く厄災"」
動じることなく太宰も答える。
『ご名答。そんな厄災が幸せになれる訳無いでしょ。』
自身に向けた皮肉がたっぷりと篭ったような口調で奏音は告げる。
「君がそうやって諦めている内は無理だろうね。」
太宰は奏音の前まで歩いて行き乍云う。
『諦めざるを得ないよ。この状況だとね。』
肩を竦めて自嘲する奏音を太宰は目を細めて見詰める。
「なら私が幸せにしてあげようか。」
太宰からの衝撃的な一言に奏音は言葉を失う。