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ポートマフィア短篇集

第1章 嗚呼、君の美しい瞳よ/森鴎外


森コーポレーション──否、ポートマフィア
身も心も削られるような長い就職活動を終え、行き着いた先がここだ。

ヨコハマの郊外に住んでいる両親は、「あの大きなビルでしょう!すごいじゃない」と大喜びしてくれたのだからありがたい。

私はもともと、ここがポートマフィアであることは知っていた。
毎日気が遠くなるほどハローワークに通い、何十冊も求人誌を読み、面接へ赴き、肩を落として帰ってくる毎日。
貯金は日に日に削れ、命まで削られている感覚に苛まれたところで、ふとインターネットの広告で見つけた求人に応募したのだった。

その求人内容は、自分の求めていた条件そのものだった。職種、給料、休日、有給、福利厚生など完ぺきで、すぐに書類を送り、その日のうちに面接をしたのだった。

今でもはっきりと覚えている。

あの日、今自分がいるビルの前に立った瞬間、自分はとんでもない間違いを犯してしまったのだと自責の念に駆られた。

だが、ここまで来たのだからもうどうにでもなれ、と半ば投げやりな気持ちで中に入ったのだった。

面接官は男性が三人だったが、部屋の中や外にスーツを着た別の男性たちが妙に多く居たのを覚えている。

面接はいたって普通の内容で、よくある「以上で、面接を終わります」の代わりに「いつから出勤できるかい?」と面接官の一人、上等そうなスーツを着た柔和な印象の男性にそう聞かれ、思わず「ありがとうございます!」と言って椅子から立ち上がってしまったことは、未だに話のネタにされる。

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