第9章 男と女、約束の交わし方
おおよそ三桁は超えたであろう死体を積み上げる。
どうやらこの場にいた烏は絶滅したようだった。
腹に突き刺さったままの刀をぬけば、血が吹き出る。
他にも何箇所か刺されたせいで、既に左肩は上がらなかった。自分より弱いとは言えども、奈落で暗殺の為の技を身につけた者達を根絶やしにするのはまぁまぁ骨が折れた。
もうこれで、奈落には戻れなくなってしまっただろうか。偵察に来た烏は全て撃ち落とし、現場を見た者はネズミ一匹逃さず殺した。
とりあえず最後に朧にでも連絡してみようと、機械の電源をいれる。
「朧様。聞こえましたら応答願います。……朧様?」
いつもは間髪入れずに返ってくる応答がなかった。だが通信は繋がっている状態。
ふと空を見上げれば、春雨の艦隊が次々に引いていくのが見える。
「朧様、白夜叉の件申し訳ありません。部隊を壊滅に追い込まれました。朧様指示を、」
「……皐月か?」
やっと聞こえてきたその声は、朧のものではなかった。
「誰だ。朧様はどうした。」
おかしい。朧の連絡機器を持っているとは、どういう事か。
「俺だ、皐月。…高杉晋助だ。」
「し、晋助?」
冷静に考えてみれば、奈落の中で自身の真名を知っているものはハル以外いない。晋助が持っているという事は、朧様は……、
「朧は俺が殺したさ。あの人の血も切れてな。」
「………そうか。」
朧の身体が限界である事は知っていた。
だからこそ最近は庇っていたつもりだったが、遂に彼は終われたのか。
何も言えず、皐月が通信を切ろうとした時、手に持っているそれから静かな声が聞こえた。
「……森の裏手に船が停めてある。皐月、俺と来い。」
「…………。」
彼女が返事をする前に、通信は切れた。