第9章 男と女、約束の交わし方
「部隊が配置についた。霞、わかっているな。」
「はい。白夜叉の首は必ず取って参ります。」
到着した部隊の先頭。
建物下には走っていく銀時の姿。
遅かれ早かれ、自分が奈落に身を置けばこうなる事とわかっていた。
皐月の合図で待機していた部隊が戦闘準備に入る。
姿を現した彼女に、銀時が目を見開き見上げる。
「皐月!」
そんな顔をしないで欲しい、と思う。
君をこんなところで殺したりなんかしないのに。ましてや、足止めなどしない。
彼女は静かに銀時の目の前へ飛び降りた。
「お前、最初から、」
「烏の相手は、烏がする。……いけ、銀時。」
降りたのにも関わらず、合図のないことに違和感を感じたのか何人かが銀時の背後へ飛び降りてくる。それを造作もないように吹っ飛ばし頭を潰す。首をへし折り、胴から腸を引き摺り出す。
そうして見せても、銀時は行こうとしなかった。
「こんな事したらてめぇ…!」
「もう遅い。……銀時、」
自分の後で中々走り出そうとしない彼に、彼女は振り向かず傘を持っていない手を持ち上げ、小指を立てて見せた。
「僕は…待っている。君が約束してくれたから。必ず生きて、地獄で君が垂らしてくれる蜘蛛の糸を待っている。だから、君は今守らなければならないモノの元へ、振り返らず、走って行くんだ。」
僕に守ったものを信じろ、それが強さだと説いたのは君だ。
それに、と天を唐突に仰ぐ皐月は、素早く番傘を空へ構えて発砲した。
「……この数だ。生まれて初めて鎖を引きちぎるかも知れない。そこに君がいては邪魔でしょうがないだろう?」
そういう彼女の足元に、撃たれた二羽の烏が降ってくる。
理性を弾き飛ばすような数ではなかったが、このくらい言えば行くだろうと、少し脅しのつもりで盛った。
「……必ず迎えにくる。それまで、絶対に死ぬな。」
走っていく音。
彼はどんな顔をして行ったのだろうか。
去っていく銀時に襲いかかっていくものを、次々に排していく。だが数が多いせいで、何本か避けきれない刀が急所を外して突き刺さる。そんな事で倒れるほど、やわい体はしていないが。
「君たちに、本物の戦闘というものを教えてあげようね。」