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夕顔

第8章 好きな人へのプレゼント選びは慎重に






もし、未だ自分が生まれた船が残っていたなら。
過去何度か想像してみたが、結局消えてしまったものには何も映らなかった。


皐月が生まれた場所は宇宙を飛ぶ鉄であった。
しかし案外あの時に帰ってみれば、時代を先立っていたのかも知れない。

それはまだ地球が天人に攻め入られ、開国をする少しだけ前の話。
その船は、"アルタナ"の価値をよく知っていた。

天導衆がまだ目をつけていない星を目敏くみつけ、星崩し。
そうやっては天導衆と上手く関係を築いていた。
皐月はそこで歳を2つ数える頃には、もう戦場に立っていた。いや、立たされていた。もっといえば立たざるを得なかった。
彼女はただの爆弾扱い。
船に乗っていた天人たちは、彼女を戦場に放り込めばそこが火の海血の海に変わることを知っていた。彼女を一種の兵器の様に扱っていた。

親はその船に乗っていたか否かなど、知らない。
他の天人より頑丈である事は早くに気付いていたが、夜兎という戦闘部族であることも虚に拾われるまで知らなかった。

こうして皐月は、親の顔、話す言葉より先に他の生を奪う事を覚えた。何かを奪われるものの恐怖より先に、畏怖の感情を向けられてきた。全ては生命活動、食事を取る事と何ら変わらない当たり前の事。それが異常だなんて知る由もなかった。


だがある日、事態は一変した。
あろう事か、天導衆をのっとらんばかりに関係の上下を変化させようとしたのだ。そんな事を奴らが許すわけもない。

その船は、次に着陸した星で潰された。
一人の幼い子供を残して。


その子供は立っていた。
無数の烏の屍の上に。


虚、の中の松陽の種はそれを捨て切れなかった。

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