第2章 松を切る草
しばらく歩いて見えてきたのは、いかにも金持ちそうな屋敷だった。立派な門が、まるで来る者を拒むかのように閉じている。門からは中の庭が見える。
「見て、松切草ばっかり」
「すごいな」
その庭は松の木がなく、松切草だらけだ。照らしてみれば、松があったような形跡がある。幹が根本から折れていた。何かで切られたような感じじゃない。朽ち果てて折れたようだ。
「松切草に、やられたのね」
「怖いこと言うなよ」
「何よ、さっきまで怖いこと言ってたのは、どこの誰?」
「俺です…」
「素直でよろしい」
「よろしゅうございますか」
「うむ」
「でも、何でこの草は松を駄目にするんだろう?」
「さあ。松だけなのよね、この草にやられるのって」
「………ギルティな草だぜ」
「でも、どうして一緒に植えちゃったのかしら。知らずに植えた?」
「可能性はあるだろう」
「松って結構、管理が大変らしいけど?松を植える時、予め知っておかないとね」
「でも○○は、よくそんな草の存在、知ってたな」
「前に見たことがあるのよ。その時に教えてもらったの。こんな話があるのよ」
そう言って○○は語り始めた。その内容は、こうだ。
その昔、ある兄弟がいた。兄弟は親の手伝いで、松を育てていた。
その松は代々から大切に育てられてきた松で、その家の繁栄と栄華をもたらすといわれていた。
確かに松の木があまりに立派なため、松の木を一目見たいと大勢の人が訪れ、兄弟は見物料を取って見せていた。どんなに大きくなっても、外から松を見ることはできない。兄弟が金を取りたいために、囲ってしまったからだ。
ある日、一人の僧侶がやって来て、松が見たいと言ってきた。当然金を取ろうとしたが、僧侶は金を持っていない。だが見せてくれれば永遠の繁栄を約束する、という。
しかし今、金がないなら駄目だという兄弟になおも僧侶は食い下がる。やがて業を煮やした兄弟は、その僧侶を切り殺してしまった。
死ぬ間際、僧侶は呪いの言葉を残した。
『我 松を枯らす草となりて 必ずやこの恨み 晴らさん』
僧侶の血から生まれたその草は、兄弟の松を枯らし、やがて兄弟は金も命も尽きてしまった。
「それから誰言うともなく、松切草と呼ぶようになったの」
「その僧侶、只者じゃないな」