第2章 松を切る草
「とにかく、私の鞄に絆創膏があるから、貼ってあげるわ」
車から鞄を取り出し、絆創膏を貼ってくれた。落ち着いてもう一度辺りを見る。俺の車があって、周りは一面の雑草と木々。道はない。
「道がない?!」
「この車が俺たちに、ついて来たのかもな」
「じゃあ、ポチって名前でもつけとく?」
まだ昼の2時だというのに、辺りは暗くて視界が悪い。車から懐中電灯を出し、辺りを照らす。
「えらい。よく持ってたわね」
「何かあったときに、役に立つだろ」
「実際、何かあった時だけどね」
○○が俺にしがみついてきた。軽口を叩いても、やはり怖いんだろう。俺も怖い。だが男として、○○を守らねば。
ライトに照らし出されたのは、一面の雑草と木々だった。
「ねえ」
「ん?」
「これ全部、落葉松の木よ。」
「えっ、そうなのか?」
俺と同じ名前の松、落葉松。その落葉松ばかりがそびえている。その落葉松が、俺たちを誘うように風になびく。
「向こうに明かりが見える!」
○○が明るい声をあげた。落葉松の向こうに、確かに明かりが見えた。星明かりじゃない、人工の明かりだ。
「行ってみよう。電話も貸してもらおう」
「あっ!電話!」
俺も気付いた。あまりに非日常なことばかりで、すっかり忘れていた。二人して携帯を出し、画面を見る。そして同時にうなだれた。
「圏外……」
「だな…。やっぱり電話、貸してもらおう!」
「そうしよう!」
しっかり手をつないで明かりを目指す。するとおかしなことに気が付いた。
「なあ。この落葉松さ、明かりの方に行くにつれて、枯れていってないか?」
「そういえば……」
落葉松の並木は明かりの方にしたがって、枯れているものが多くなっている。それと共に、花が多くなっているように思えた。
「この花、何だろう?」
「まるで落葉松を、枯らしているみたい…。あっ!思い出した!これ、松切草だ!」
「松切草?」
「そう!松と一緒に植えたら、絶対ダメなやつ!」
「そんなのがあるのか。俺も、切られるのかな」
「やめてよ、縁起でもない!カラ松が切られるなんて、絶対嫌だからね!」
真剣な顔で言ってくれる。ああ、俺は○○が好きだ。○○はちゃんと俺を見てくれる。他の奴らが無視しても、見捨てたりしない。