第55章 ◇第五十四話◇魚も溺れる夜【恋の行方編】

「なんでリヴァイ兵長に殺されんだ？」

ジャンが何かを呟いていたけれど、小さくて聞き取れなかった。
たぶん、私に言ったのではないのだろう。
私はまた目を瞑って、ジャンの胸元に頬を押し付けた。
それからすぐ、ジャンが私に声をかけた。

「着きましたよ～。」

ジャンが扉を開けて、私を部屋に運び入れる。
そのまま真っすぐ進むと、ベッドの前で立ち止まった。

「ベッドに降ろしますね～…っと、うわっ！」

そっとベッドに降ろそうとして腰を曲げたジャンの腕から、私は転がるように落ちてしまった。
そのまま背中からベッドにダイブしたせいで、シャツの裾がめくれて素肌が晒され、スカートが際どいところまではだけて太ももまで露になってしまう。
そして、思わず私を落としてしまったジャンは、何とか私を受け止めようとした格好でバランスを崩し、ベッドの縁に膝をついた状態で私の上に倒れ込んでしまった。
ベッドに両腕をついてなんとか自分の身体を支えたジャンは、唇が触れるか触れないかの距離に私の顔があることに気づいたのか、驚いた顔を真っ赤にした。

「す、すみませんっ！」

慌てて離れていこうとするジャンの腕を、私は無意識に捕まえていた。
さっきよりは少しだけ唇から離れた場所から、驚くジャンを見ながら、どうして彼を引き留めなのだろう、と考える。

『10代の男の子って、そういうことばっかり考えてるって言うじゃない？
　10代の男の子もその気にさせられなかったら、ジ・エンドだね。』

不意に頭の中でペトラの声が響いた。
エコーがかかったみたいに小さくなったり大きくなったりするから、頭がガンガンする。

「私って…、色気ないかな？」
「あ、あの…っ。」

戸惑うジャンの瞳が左右に忙しなく揺れる。
お酒で火照って上気した頬が赤くなっていたジーニーの色っぽい顔が蘇る。
私だって、お酒を呑んだし、こんなに酔っぱらってるし、少しくらい火照ってると思う。
少しくらいは上気した頬が色気を出しているんじゃないのか。
それでも、ダメなのかー。
そんなことばっかり考えているはずの10代の男の子でさえも欲情させられないほど、私には女として魅力がないのだろうか。