第3章 時代の革命児
1546年のある日、家老団と司馬頼継は吉法師と共に信秀が居城とする古渡城へ向かった。裳着を行う為だった。
基本的に、裳着とは初潮を迎えた10代前後の女性が、一族や他氏に対して成人したことを示す通過儀礼。この儀式では、裳を着ることによって成人したことや婚姻の許可が認められる。
古渡城の一室をかりて裳を着る準備をする。
「腰結ってあなただったのね」
「選ばれることはないと思っていたのですが、どうやら私がするようです」
「でも納得。頼継は皆から好かれているもの。徳望ある人物よ」
「ありがたいお話です」
裳を着る時に腰紐を結ぶ役を腰結という。これは裳着に関する人物全員から信頼されていなければいけない、徳望のある人しか出来ない役回りだそうだ。
「はい。結び終わりましたよ」
「ありがとう、頼継。どう、似合ってる?」
「ええ。本当にお綺麗ですよ」
「ふふっ、ありがとう。嬉しい…」
裳を着た吉法師様は、もはやこの世の者とは思えない美しさだった。普段の艶のある、でも少しボサっとした黒髪はこの儀式の為に髪上げをしていた。それが相まって、まるで人形のような小さくて細い可憐な容姿に心を捕らわれていた。
「この儀式が終われば、私も近い将来出陣する時がくる」
愛らしい表情から一変、その眼差しは未来を見据えるが如く猛々しくも凛としていた。
「泰平を築く。この夢は絶対に叶えてみせる」
裳着を行うからなのか、俺が彼女に見とれていたからか、天下を統べようとするその表情は戦国の姫武将そのものだった。女の成長は早いとはよく言ったものだ。
正式に裳着が始まった。そこで吉法師は織田信長と名乗ることになった。酒宴や祝儀は壮大に行われた。
先の予見通り翌年の1547年、信長様は初陣ということになった。
「頼継が手配してくれたのね。ありがとう」
俺は信長様の初陣ということもあり、紅筋が入った頭巾と馬乗り羽織り、馬鎧を支度手配した。
信長様は駿河からの軍勢を三河へ手勢を指揮しつつ出陣した。特に目立つ傷をつけることなく、翌日には那古野に帰陣した。
*那古野・・・名古屋市中区
*古渡・・・名古屋市中区