第1章 ①
そして迎えた最初の休み時間。
男子も女子も興味津々に永原の周りに集まり遠慮ない質問攻撃が始まった。
「ねぇねぇ、どこから引っ越してきたの?」
「髪綺麗だね。どうやって手入れしてるの?」
「前の学校でも絶対モテたでしょ?」
「あ、俺立候補いいですか?」
「いきなり抜け駆けかよ!」
明るく響くクラスメイトの笑い声と永原の鈴のような笑い声。
自分で言っていたように適応力はかなり高いらしい。だけどそれだけじゃない。
めちゃくちゃな美人でも、芸能人のように可愛いワケでもない。ただ、その雰囲気は不思議と人を惹き付ける。
穏やかで優しくてどこか安心できる…そんな雰囲気を天性で持ち合わせた人。これもまた神から与えられた才能の一つだろう。
永原の周りにあまりに人が集まり、追いやられてしまった御幸は仕方なく教室の窓辺でスコアブックを見ていた。
いつものようにクラスメイト達の話し声をBGMにしながら。
だけど、今日はその中に一際目立つ音が入ってる。
永原の声と笑い声。別に嫌な音ではない。むしろ心地よいくらいだ。
ふと顔を上げると永原が目に入った。楽しそうに笑っている。その笑顔に思わず口元が緩むとまた下を向きスコアブックを見た。
窓から降り注ぐ日差しは暖かな春の日差し。ポカポカと背中が心地いい。
見ているものはいつもと同じ。スコアブックと教室は違えど3年間共に過ごしてきた仲間たち。聞こえる声もすっかり馴染んだ音。
だけど、今日、初めて違う景色と音が混じっている。
それは心地よい違和感。野球にしか興味がない男、御幸一也が初めて知った違和感。
その違和感の正体を誰もまだ知らない。