第7章 ⑦
「御幸先輩!球受けてつかーさい!」
今日もいつもの練習終わり。飽きることなく沢村が御幸に駆け寄って来る。
「お前さぁ…犬?」
「は?誰が犬ですか!?」
「いや、毎日、毎日尻尾振りながらボール持って俺に纏わりついて来るだろ?」
「なっ……この性悪メガネ!!」
「くくっ……嘘だよ。受けてやる。今日は。10球だけだぞ?」
「っしゃー!」
室内練習場に向かうとそこには誰もいなく御幸と沢村の二人きり。お互い準備を整えると御幸がミットを構えた。
「ここ、しっかり狙って来い。俺は動かねぇぞ。」
「分かりました。御幸先輩……」
「ん?何だ?」
「キャプテンの仕事ってそんなに大変なんすか?」
「……?何だ急に?」
珍しく沢村の大きな瞳が揺れている。御幸の眉間に皺が寄っていく。
沢村がこんなこと言ってきたことなどない。キャプテンの仕事に興味があるのか?しかし正直、次期キャプテンが沢村と言うのも微妙なところだ。
沢村の真意を図りかねていると投球フォームに入っていた腕が下ろされた。
「沢村?」
「……アンタ何にそんなに苦しんでるんすか?必死に普段通りに見せて。今にも崩れそうな心を抑え込んで。キャップから見たらそりゃ、俺達なんて頼りないのかも知れないけど、もう少し俺達のこと信頼してくれてもいいんじゃないんですか?!」
誰にも気付かれてないと思っていたその心は簡単に見抜かれていた。この1年後輩のエース候補に。
どこまでも真っ直ぐなその瞳は御幸の複雑に雁字搦めになってしまった心をちゃんと見ていた。
もちろん、その原因は野球関連だと思い込んでいたのだが。