第1章 ①
「おはよー。」
「おはようございます!」
「っよーっす……」
いつもの朝がやってきた。寝ぼけ眼の奴、寝癖で髪があっち向いてホイの奴、適当に交わす朝の挨拶。
軽く身なりを整えるといつもの朝練。そして朝食。皆、決められた量の飯を食べて。
昨日までならそこからさらに練習だが、今日から新学期。高校生としての生活も待っている。
制服に着替えたら新しい教室へと向かう。
学年が一つ上がった御幸一也は3年B組へ。腐れ縁とも呼べる倉持も同じクラスだ。
黒板に書かれた席は教室の真ん中。そこの一番後ろ。座ると倉持の声が響く。
「ヒャッハー!また同じクラスだな!」
「全くだ。」
呆れたように肘を付きいつものように返すと倉持が隣の机に腰かけた。
「でも、ここ空いてるのか?」
「あ?……あぁ、そうみたいだな。」
「転校生でも来んのか?」
転校生…3年にもなって転校生などあるのだろうか?だけど、特段興味はない。興味があるのは野球だけ。高校生活最後の一年を迎え、目指すは甲子園。そして、全国制覇。
スコアブックを取り出すと倉持が何か言っている横でそれに目を落とす。
野球以外に興味のない御幸は学校での休み時間のほとんどをこうしてスコアブックを見て過ごしている。
ライバル校の情報や攻略、チームの状態、特に投手陣の状態を確認し、練習量にメニュー、次の試合の攻略……考えたいこと、考えなければならないことは山の様にある。