第10章 君だけの吸血鬼(新開隼人)
夏の熱気がようやく落ち着き、頬をかすめる風に秋の気配が混じり始めたころ。
放課後の教室で、杏子が机に頬杖をつきながら、いたずらっぽく笑った。
「ねぇねぇ、ハロウィンパーティーしようよ」
突然の提案に、私はペンを止めて顔を上げる。
「ハロウィンパーティー?」
杏子は唇の端を上げて、何かを企んでいるような目をした。
「ほら、自転車競技部のみんな、インターハイ終わって少し落ち着いたでしょ? だからこの機会に――東堂くんとお近づきになりたいなって思って!」
思わず息をのむ私に、杏子は机越しに身を乗り出してくる。
「だからね、協力してくれるよね?新開くんに聞いてみてよ!お願い!」
ぱっちりした瞳で見つめられると、どうにも断れない。
昔からそうだ。美人で愛嬌のある杏子に頼まれると、つい「仕方ないな」と言ってしまう。
――結局、その日も私は観念して頷いた。
そして帰り道、スマホを取り出し、彼氏である隼人にメッセージを送る。
「ねぇ、ハロウィンパーティーってどう思う?」