第21章 観光一日目
出口へ向かう途中、帰宅ラッシュの時間帯に当たってしまったらしく、出口付近は大変混雑をしていた。
背の低い私は全く前が見えない。
人混みに流されもみくちゃになっている中、私の右手首を誰かの手が掴んだ。
その手は人混みから出るように端へと一直線に私の手首を引っ張っていく。
人混みから抜け出すと、そこにいたのは尽八だった。
『尽八、ありがとう…流されて逸れちゃうかと思ったよ…』
「あぁ、大したことない。気にするな」
『でも、巻島さん逸れちゃったね』
「あぁ。」
先ほどまではしゃいでいた尽八が急に黙り込み俯く。
その様子を不思議に思い尋ねると、ハッとしたような表情を私に見せた。
「巻ちゃんには俺から連絡を入れておく!だから、この人混みが止むまで少し歩こう」
そう言いながら尽八は私の手を引き水の都を模したエリアへと足を進める。
そして先ほどゴンドラで願い事をした橋の上まで来ると、尽八は真剣な顔をしてこちらを見つめる。
『尽八?』
「茉璃…茉璃は巻ちゃんのことが好きなのだろう?」
急な尽八の問いかけにびっくりして固まっていると、尽八はそっと私の頭の上に掌を置いた。
そして優しく微笑み私を見つめる。
「俺はな茉璃、お前には誰よりも幸せになってほしいと思っている。それは茉璃のことを愛しているからだ。だがそれが叶わぬことぐらい俺にもわかる。何年も茉璃をみてきたのだからな。だから、応援しているよ。」
そう囁くように私に語りかける尽八の顔は、笑ってはいるがどこか切ない表情をしていた。
『尽八…ごめんね、ありがとう』
「気にするな。俺にはファンの女子がたくさんいるのだからなー!ワーッハッハッハ!」
そう高笑いをすると尽八はいつもの表情に戻っていた。
そんな尽八を見つめたまま黙っていると、尽八は少し焦ったようにまたこちらを見る。
「茉璃、なにも気にするな!俺の自己満足で気持ちを伝えたかっただけなのだからな。それに俺たちの関係は今までと何も変わらんよ。」
その言葉にホッとした。
すると、同時に巻島さんがこちらに向かって走ってきているのが見えた。
その様子に気がついた尽八は優しく私の手を取り、巻島さんの元へと歩み寄っていくのだった。