第12章 幼馴染みからの電話
巻島さんと初めて峰ヶ山に登った日、私は機嫌良く鼻歌混じりにロードに乗って家路についていた。
何故こんなに機嫌がいいかというと、峰ヶ山を降る直前、今週末に行われるヒルクライムレースの詳細を送るという名目で巻島さんから連絡先を聞いてもらえたからだ。
ルンルン気分で家に帰ると母が機嫌良さげに受話器を耳に当てていた。
「あら、やっと帰ってきたわー!今変わるわね」
そう言って母は私に受話器を差し出す。
『え、誰?』
「出ればわかるわよ」
笑顔で私に受話器を押し付け、母は鼻歌混じりにキッチンへ向かう。
渡された受話器に耳に当てると懐かしい声が私の耳に入った。
〈もしもーし、茉璃?元気にしてたかー?〉
『尽八!?』
それは私の幼馴染み、箱根学園の東堂尽八の声だった。
〈茉璃、来週の三連休は空いているか?〉
急な質問に驚きながらも私はスケジュール帳確認する。
そこには、土曜日の枠に山と蜘蛛の絵が書かれていた。
それは1ヶ月前に巻島さんと約束したヒルクライムレースの予定だ。
『土曜日以外なら空いてるよ』
〈ん?そうなのか?土曜日は埼玉の長瀞山でレースがあるから、久しぶりにまた見にきたらと思ったのだが…〉
『ん?ちょっと待って』
私は埼玉の長瀞山という言葉に聞き覚えを感じ、メールを確認する。
すると、つい先程巻島さんからレースの詳細が送られてきていたようだった。
そのメールの文面にはハッキリと、【埼玉県 長瀞山ヒルクライムレース】と記載されていた。
『尽八、そのレース私見に行くみたい』
〈ん?そうなのか?〉
『うん。部活の先輩に結構前から誘ってもらってて』
〈部活の先輩?茉璃、お前もしや男ではなかろうな!?〉
何故だか騒ぎ出す尽八の声に受話器を少し耳から遠ざけ静かになるまで少し待つ。