第85章 揺れる心と押す背中
インターハイ2日目。
ゴールラインの先で、3つの影がほぼ同時に飛び込んだ。
総北、箱根学園、京都伏見。
目を凝らして見ても、差なんてほとんど無いように思えた。
けれど、アナウンスが告げたのは僅かな現実。
最初にゴールラインを踏んだのは、京都伏見だった。
その瞬間、息をすることさえ忘れた。
気づけば、手に握っていたドリンクボトルが震えている。
テントに戻ってくる選手たちの顔には、疲労と悔しさと、少しの清々しさが混ざっていた。
今泉くんは戻ってきた彼らの前へ出て深々と頭を下げる。
「すいませんでした!!!」
そんな今泉くんを黙って見つめる。
けれど、彼を責める声は一つも上がらない。
あのゴールまで、彼がどれだけの覚悟を抱えて走ったか。
みんなが全てを託し、その重みを背負って走り切ってくれた。
そんな彼を責める人なんて誰一人としていない。
私はただその姿を見守ることしか出来なかったけれど確かに感じた。
今泉くんの走りはこれまでで一番強く、一番美しかった。
それこそ、杉元くんが嗚咽を漏らして崩れ落ちるほどに。
悔しい。
けれど、それ以上に誇らしかった。
全員が生き残って明日へと繋げた。
そのことが何よりも嬉しかった。
彼らの視線はもう明日を見据えている。
ーー大丈夫。
このチームはまだ終わらない。