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蝶と蜘蛛

第84章 届かない手のその先で


夜の静けさがようやく深まり。外の虫の声が遠くで細く鳴いている。

眠ったかどうかもわからないまま、気づけば窓の外がうっすらと明るくなっていた。

朝の光がカーテンの隙間から差し込み。白いシーツを淡く照らす。

ゆっくりと身体を起こし、昨夜伏せたままのスマホに手を伸ばす。
画面をつけると、通知が一つだけ光っていた。

ーー今日も頑張れよ、マネージャー。

たった一文。
それだけなのに胸の奥が温かく満たされていく。
指先で画面を撫でながら、笑っているような、泣きそうな気持ちがこみ上げた。

『…裕介さん』

小さく呟いたその声にはもう迷いはなかった。
鏡の前で髪をまとめ深呼吸をひとつ。

鏑木くんも純太もみんな、6人で今日を迎えられている。
自分もその中の一員になったつもりでもう一度立ち上がろう。

スマホをポケットに入れ、心の中でひっそりと呟く。

ーーありがとう。

カーテンを開けると、朝日が眩しいほどに輝いていた。
昨日より少しだけ強くなった気がして、私は笑みを浮かべながら部屋を出た。

廊下にはもう選手たちの明るい声が響き始めていた。
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