第83章 5月の海
海の音が穏やかに耳を擽る。
場所は江ノ島。
レースを終えたばかりの私たちはピエール先生に束の間の休息時間を貰っていた。
海沿いのカフェ。
窓の外にはきらめく水平線。
向かいの席では純太が青八木くんと談笑している。
砂糖をスプーンで一混ぜして、私はそっとカップに口を運んだ。
潮の香りと紅茶の香りが混ざり合う。
「そろそろ行くか、青八木。鳴子がはしゃぎすぎて時間を忘れてそうだ」
そんな冗談を言いながら純太は立ち上がる。
どうやら小野田くんたちを迎えに行くらしい。
「茉璃はもう少し休んでからこいよ」
そう言い残して2人は水族館の方へ歩いて行った。
残された私はカップの底に残った泡を見つめながらゆっくりと深呼吸する。
『そうだ』
私はふと目の前の机に置かれた携帯に手を伸ばす。
そして目の前でキラキラと光輝いている広大な海の写真を撮ると一通のメールに添付した。
ーーーレースが終わってみんなで息抜きに江ノ島きたよ!
海がキラキラして綺麗!
そう送ると、すぐにまた携帯が鳴る。
そこには
ーーあぁ。綺麗ショ。
と短く返信が来た。
相変わらず淡白な返事。
それでも、時差がある中でこうしてすぐに返信をくれたことが嬉しい。
『よし、もうちょっと近くまで行くか』
私は立ち上がると、目の前の海へ向かった。