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蝶と蜘蛛

第79章 君と最後の峰ヶ山(巻島目線)


夕陽が山頂を包み込み、空がオレンジ色に染まっていく。
並んで座るその距離が、いつもより少しだけ近い。
今朝まであんなに近くにいたというのに、ほんの少し方が触れるたびに心臓が跳ねた。

『そういえば私ね、この夕日を最初に裕介さんと見たあの時、はっきり自覚したの。裕介さんのこと好きなんだって』

思いがけない言葉に、息が止まる。
「はっ!?」と反射的に声がでた。
茉璃はそんな俺を見て、楽しそうに笑う。

『その時ね、裕介さんの横顔見ながら”好きなんだなー”とか呟いちゃって。裕介さん、びっくりしてたよね。』

あの時の光景が一気に蘇る。
確かに、あの日の夕暮れもこんな色をしていた。
俺は彼女の言葉に狼狽ながらも、内心では泣きたいぐらい嬉しかった。

『思えば、最初裏門坂で助けてくれたあの時から、ずっとーーー』

彼女の言葉が続くたび、胸が締め付けられていく。
あの頃の自分がどれだけ不器用で、それでも必死に彼女に触れようとしていのを思い出してしまう。

茉璃の頰に伝う涙がぽろりと落ちる。

気づけば俺は迷いもなくその身体を引き寄せていた。
細い肩が腕の中で震えていて、その温もりが壊れ物みたいに愛おしかった。

「…前にも言ったかも知れねェが…俺は、一目惚れだったショ」

言葉が自然と口をついた。

「ずっと高嶺の花だと思ってた茉璃が、あの裏門坂の出来事で俺の前に現れて…。気づいたら近くにいるのが当たり前になってたショ。そんで気持ちはどんどん大きくなっていった」

顔を上げて涙で潤んだ瞳を見つめる。

「俺も茉璃のことが大好きショ。…愛してる」

その瞬間、彼女が小さく笑った。
それが可愛くて、胸が熱くなる。

『…向こうで、グラビアアイドルみたいなナイスバディな子に迫られても、なびいちゃダメだよ?』
「なびくわけないショ」

思わず即答して、2人で吹き出した。

夕陽の光が茉璃の頰を柔らかく包み込む。
笑いながらも、その笑顔が切なくて、いまにも消えてしまいそうで、思わずもう一度、強く抱きしめた。

ーーあと少し。
あと少しだけでいい。
この時間が続いてくれたら。

そう願いながら、沈んでいく夕陽をただ黙って見つめていた。
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