第78章 あなたと最後の峰ヶ山
頂上へ着くといつもの腰掛石へ並んで座る。
空はオレンジ色と群青色が混ざり合い始めていた。
『そういえばね私ーー』
少し息を整えてそっと隣を見る。
『この夕日を最初に裕介さんと見たあの時、はっきり自覚したの。裕介さんのこと好きなんだって』
「…はっ!?」
驚いたようにこちらを向く裕介さんに、思わず笑みが溢れる。
『その時ね、裕介さんの横顔見ながら”好きなんだなー”とか呟いちゃって。裕介さん、びっくりしてたよね。』
裕介さんの頰が夕陽を受けて一層赤く染まっていく。
でもそれはただ夕焼けのせいじゃないことくらい私にもわかっていた。
『思えば、最初裏門坂で助けてくれたあの時から、ずっと裕介さんのこと気になってたんだと思う。』
「…」
『マネージャーになって、一緒に過ごす時間が増えて。どんな時も裕介さんは私に優しくて、支えてくれて…その度にどんどん惹かれていったの』
堪えていたものが決壊するように視界が滲んだ。
『裕介さんが大好き。昔も、今も…これからも、ずっと』
頰を伝う涙が膝の上にぽとりと落ちる。
その瞬間、裕介さんの腕がそっと私の肩を引き寄せる、
胸の奥から溢れ出す鼓動が、彼越しに伝わってくる。
「…前にも言ったかも知れねェが…俺は、一目惚れだったショ」
低く掠れた声が、耳元に落ちる。
「ずっと高嶺の花だと思ってた茉璃が、あの裏門坂の出来事で俺の前に現れて…。気づいたら近くにいるのが当たり前になってたショ。そんで気持ちはどんどん大きくなっていった」
抱きしめる腕に力がこもる。
「俺も茉璃のことが大好きショ。…愛してる」
胸の奥がぎゅっと締め付けられて、また涙が溢れた。
でも今度の涙は、悲しみだけじゃなかった。
『…向こうで、グラビアアイドルみたいなナイスバディな子に迫られても、なびいちゃダメだよ?』
「なびくわけないショ」
思わず笑って、裕介さんもふっと息を漏らすように笑った。
その笑顔が夕陽に照らされて、オレンジ色の光の中で、少し滲んで見えた。
風が静かに通り抜け、遠くで虫の声が響く。
2人の間には言葉よりも確かな温もりがあった。
やがて夕陽が沈み空が夜の色を帯び始める。
裕介さんの肩にもたれながら、私は目を閉じた。
ーーどうかこの時間が終わりませんように。
そんな願いが、静かに胸の奥に揺れていた。
