第76章 最後の時間(巻島目線)
洗い物を終えると、両親は「明日から用事がある」と荷物を持って出ていった。
玄関の音が遠ざかる。
静寂が残った。
この家がこんなに静かなのは久し振りな気がする。
「…行ったショ」
自分でも意味のない言葉を呟いたと思う。
茉璃はリビングの隅に腰を下ろして窓の外を見ていた。
俺は冷蔵庫から母さんの作ったゼリーを取り出しテーブルへ置く。
「これだろ、母さんが行ってたやつ…食うショ」
『ありがとうございます』
茉璃はスプーンを手に取り丁寧に一口すくった。
聡明なゼリーご越しに、柔らかく笑うその顔が、どんな宝石よりも綺麗だと思ってしまった。