第73章 親友へ(巻島目線)
あのミーティングから数日。
俺は家と図書館を行き来するだけの毎日を送っていた。
茉璃は部活があるためしばらく図書館に来ていなかった。
あの5日間より静かに感じる図書館のドアがゆっくりと開かれた音がした。
視線を向けるとそこには茉璃の姿があった。
少し照れくさそうに、でもまっすぐ歩み寄って来る。
彼女は静かに俺の前に座った。
その瞳に心配と優しさが見える。
『裕介さん、尽八には伝えないの?』
その言葉に指先が止まった。
ペン先が紙の上に小さな黒点を残し静まり返った図書館に時計の針の音だけが響く。
顔を上げることができずに小さく息を吐いた。
「…やっぱ言わなきゃだよな。あいつにも…」
そう口にしてみると、胸の奥が少しだけ重くなる。
『きっと尽八のことだから、裕介さんと同じ大学に行くんだって躍起になってると思う。私にも志望校、聞いてきたし」
そう言う茉璃の声は優しかった。
その優しさが余計に胸に刺さる。
さずが幼馴染だ。
俺なんかよりずっと東堂のことをよく見ている。
「クハッ…あいつらしいショ」
自然と笑いが漏れた。
いつも通りの東堂を思い浮かべたら、少しだけ気が楽になった。
けど、やっぱり言わなきゃならねェ。
このまま逃げたら、きっと後悔する。
机の上の携帯を手に取り、強く握りしめる。
画面の向こうに東堂の名前が浮かんでる気がした。
「ちょっと行ってくるショ」
椅子を引く音がやけに大きく響いた。
夕方の光が差し込む扉の向こうへ一歩踏み出す。
背中に感じる視線が優しくて少しだけ切ない。
きっとこの視線も俺の進む道を見送ってくれているのだと思った。