第71章 別れの時(巻島目線)
部室を出て行く足音が一つ、また一つと遠ざかって行く。
海外への進学を納得して応援してくれたやつ、悔しそうに俯いて言葉を発さずに部室を後にするやつ、茉璃の様子を心配しながらも声をかけられずに帰って言ったやつ。
それぞれ反応は違ったけれどみんなきっと胸の奥で何かを飲み込んでいたのだろう。
扉が静かに閉まる音が響いた後、部室に残ったのは茉璃だけだった。
『ダメだね、私。覚悟…決めてたはずなんだけどなぁ…』
その言葉がまっすぐ胸に突き刺さる。
思わず自然に茉璃を抱きしめていた。
細い体がブルブルと震え、押し殺すような嗚咽が俺の胸に伝わる。
そんな茉璃の姿を見て、抱きしめる腕に力が入った。
「必ず、いつか必ず茉璃のこと、迎えにいくショ。だから。少しの間、待っててくれるか?」
胸の中で小さく頷く茉璃。
『うん…!前にも言ったでしょ?何年離れ離れになったとしても待ち続けるって』
涙でくしゃくしゃの笑顔で茉璃は必死に俺を見上げる。
その瞬間、言葉も理屈もいらなかった。
止められず、たまらず、俺はそっと唇を重ねた。
時間が止まったようなあの一瞬。
部室に残る夕陽と2人だけの鼓動が、静かに、けれど確かに世界を満たしていた。