第71章 別れの時(巻島目線)
小野田と峰が山から帰ってくると他の部員たちが部室に集められていた。
いつもと変わらない光景のはずなのに今日はどこか遠く感じる。
もうこの輪の中でこいつらと肩を並べることはない。
そう思うだけで胸の奥がざわつく。
「巻島は、今日限りで退部する」
金城が言葉を絞り出すように告げると部室内の空気が止まった。
誰もが息を飲んだのがわかった。
「海外の大学に行くってどういうことなんすか!?」
真っ先に声をあげたのは鳴子だった。
その勢いのまま続けざまに叫ぶ。
「3年生の追い出しレースはどうするんすか!?自転車は!?茉璃さんのことはどうするんすか!?」
茉璃の名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた。
けれど、何も言えなかった。
茉璃だけではなく、みんなにももっと早く伝えるべきだった。
けど、インハイの邪魔はしたくなかった。
「ねぇ、茉璃さん!!なんか言うてくださいよ!」
鳴子の声が震える。
視線の先には茉璃が立っていた。
その表情を見た瞬間、息が詰まった。
「…ずっと前から決まってたことだから」
苦しそうな笑顔を無理やり作ってそう言う彼女の声は今までに聞いたこのないほど冷たいものだった。
部室に響くその声により一層静まり返る。
視界の端には拳を握りしめたまま俯いて動かない小野田の姿があった。