第62章 すれ違いのあとで(巻島目線)
茉璃が俺の胸に飛び込んできた瞬間を思い出し、胸の奥がじんわりと熱くなる。
(やっぱり、俺…茉璃が好きショ)
そんなことを思いながら茉璃を部屋まで送り届けた。
「おやすみ」
『おやすみなさい』
その小さな返事を聞いてから、俺は再び外へと向かった。
そしてである人物にメールを送信する。
すると1分も経たないうちに携帯の着信音が鳴り響いた。
<もしもし、巻ちゃん?先ほどのメールの件なのだが…>
俺の送ったメールを見たのだろう。
メールには先ほどのSNSのURLを貼り付けておいた。
「お前、あんま人のいるところで茉璃に抱きつくなショ」
<すまない。俺が失念していた…まさかこんな事になるとは…>
珍しく落ち込み気味の東堂の声を聞きなんだか力が抜ける。
<断じて、邪な気持ちで茉璃を抱きしめたわけではない!しかし、こんなのを見せられて信じろと言われる方が酷か…>
「茉璃から聞いたショ。あれは感謝のハグだったんだろう?」
<そうだ。今日の山岳賞、あれは俺一人では獲れなかった。俺がここまでこられたのは茉璃のおかげでもある。本当は感謝を述べるだけで終わらせようと思っていたのだがな…気づいたら抱き寄せてしまっていたよ。でもそれは感謝が溢れてだな…!>
こいつと茉璃はどこか似たところがある。
この嘘のない声。
一緒に育ってくるとこんなところまで似てくるものなのだろうか。
「クハッ!」
俺は思わず吹き出すように笑った。
「別にそんなことでキレてたりしねェショ。…ただ、あのコメントを見たとき、焦っちまったんだ。元々手の届かない存在だった茉璃が近くにいて、俺の彼女になってくれてるなんて自分に都合のいいように作り出した夢だったんじゃねェかってな」
<巻ちゃん…>
東堂は小さく息を吐く。
<巻ちゃんは茉璃のことを大事に思ってくれているのだな。>
「当然ショ」
少しの沈黙の後俺らはどちらともなく笑った。
<巻ちゃん、明日もまた全力で戦おう>
「あぁ。わかってるショ」
電話を切りふと夜空を見つめる。
スッキリしたような清々しい気分だ。
俺は腕を上げ体を伸ばすとスッキリした気持ちで旅館へと戻っていくのだった。