第62章 すれ違いのあとで(巻島目線)
しばらくすると風呂から帰ってきたであろう茉璃の姿が見えた。
「…ちょっと、いいか?」
驚いたように目を瞬かせる茉璃の手を引き旅館の外へ出た。
「さっきの…真波の話、どう言うことショ」
茉璃は少し戸惑った後、まっすぐに俺を見て答える。
「レースの後、尽八から表彰式の後ステージ脇にきて欲しいってメールが来てたから行った。それで尽八からここまでこれたのは私のおかげでもあるってお礼を言われて…その後…抱きしめられた。それで私も…それに応えた。でも、その…恋愛感情があるハグでは無いと言うか…感謝のハグ…というか…言い訳に聞こえるかもしれないんですけど…」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたものが一気に緩んだ。
あまりにもまっすぐで嘘のない声で言うもんだから。
最初からわかっていた。
東堂と茉璃が俺を裏切るわきゃねェと。
でもどうしてもこれは…
俺は先ほど見つけたSNSを茉璃に見せる。
『これ…え、なんで…』
驚いた表情でSNSを眺める茉璃に俺の正直な気持ちをぶつけた。
「茉璃と東堂がそんな関係じゃないってのは俺が一番よく知ってるショ。だから疑っちゃいねェさ。お前らが裏切るわきゃねェんだ。でもこんなコメント見ちまったら、正直、嫉妬…するショ」
『嘘、知らなかった…』
驚く茉璃を見てようやく心から笑えた。
俺は茉璃の頰に手を触れる。
まだ少し熱を持った肌が心地よくて、そのまま額を引き寄せた。
「もう気にしてねェショ。だから…」
俺は額を離すと両手を大きく広げた。
すると茉璃は少し顔を赤らめるもすぐに俺の胸の中に飛び込んできた。
そんな茉璃が愛おしくて俺は力強く抱きしめる。
たったそれだけのことで先ほどまでモヤモヤしていた気持ちが溶けていくようだ。
『裕介さん、不安にさせて…ごめんなさい…しかも、こんな大事な時に』
俺は抱きしめている腕にさらに力を込める。
茉璃もそれに応えるように俺をギュッと抱きしめた。